ユーザー企業とベンダー企業の共創の推進


経済産業省が2020年12月に公開したDXレポート2には、政府による政策の方向性の一つとして「ユーザー企業とベンダー企業の共創の推進」の必要性が取り上げられています。
日本の特徴であるユーザー企業とベンダー企業の関係性は、業務上ITシステムを必要とするユーザー企業から見れば、専門知識やリソースが必須となるIT投資に対してベンダーへの委託によってコストの削減が可能となり、ベンダー企業から見れば受託契約によって自分たちのIT技術を活かして低リスクで長期安定の収益が見込めるという、お互いのメリットを享受可能なWin-Winの構図が形成できていました。

しかしながら、デジタルイノベーションによって、デジタル・ディスラプションと呼ばれるゲームチェンジが起きている現代において、迅速にITシステムを構築し、安定的に最新技術で最適化しながら維持していくには、この両者の相互依存の関係にもデジタル産業を目指す企業の3つのジレンマが大きく浮かび影響してきました。


デジタル産業を目指す企業の3つのジレンマ
  1. 危機感のジレンマ
    ・目先の業績が好調のため変革に対する危機感がない。
    ・危機感が高まったときはすでに変革に必要な投資体力を失っている。

  2. 人材育成のジレンマ
    ・技術が陳腐化するスピードが速く、時間をかけて学んだとしても、習得したときには古い技術となっている。
    ・即座に新技術を獲得できる人材は引き抜かれてしまう。

  3. ビジネスのジレンマ(ベンダー企業)
    ・受託型ビジネスを現業とするベンダー企業が、ユーザー企業のデジタル変革を伴走・支援する企業へと変革しようとすると、内製化への移行により、受託型ビジネスと比べて売上規模が縮小する。
    ・ベンダー企業がユーザー企業をデジタル企業へ移行する支援を行うことにより、最終的には自分たちが不要になってしまう。

DXが求められる現代において、ユーザー企業にとっては、かつてはベンダー企業に競わせることでコストの削減を実現できた半面、ベンダー任せで特定ベンダーに依存してきたため自社内でIT対応能力が育たず、能力不足によってITシステムがブラックボックス化し、また、他ベンダーへの乗り換えが困難になるベンダーロックインの問題により、機敏で臨機法変な対応もかなわず、顧客への迅速で満足が得られる価値の提供ができないという問題が露見してきました。
一方でベンダー企業側では、昔からある労働単価の人月計算のように、従来の労働量に対する値付け方式が安定的に契約できる低リスクのビジネスを継続できた半面、RPAのロボットによる自動化のような人の労働量を減らし生産性を向上させるような技術取得は、利益相反となるためあまり積極的投資できない事情がありました。

こうした事情により、デジタル社会においては、ベンダー企業とユーザー企業は共に、高収益な領域で利益率の高いビジネスへとDXを推進していく必要があり、両者共に変革を主体的に意識して取り組む必要があります。
ユーザー企業は、ビジネスの環境変化に機敏に対応する能力、すなわち、ビジネスアジリティを身に着け、ベンダー企業は、受託開発型のビジネスとは決別し、ユーザー企業のDXを支援・伴走してけん引するようなパートナーに転換していく必要があります。

DXレポート2に登場する「ユーザー企業とベンダー企業の共創の推進」では、レガシー企業文化から脱却して、産業変革のさらなる加速に向けては、ユーザー企業のDXを起点としてベンダー企業の事業構造の変革を促すべきであると、その必要性を訴えています。
つまり、DXはユーザー企業だけが単独で実施すればよいとう問題ではなく、従来のレガシー体質と説別して、ベンダー企業も含め企業が連携して共に作り上げるものだと提唱しているようです。


デジタル産業を目指す企業の3つのジレンマが、ユーザーとベンダーの共創を促す


DX