2019.10.30
量子コンピュータはスパコンを超えるか?
2019年10月Googleが、量子コンピュータによって最先端のスーパーコンピュータでも1万年かかるとされる処理を、200秒で実行でき量子超越性(quantum supremacy)を実現したと科学誌「Nature」に掲載された論文で発表し、これに対し、IBMは、世界最速のスパコン「Summit」なら、2日半で完了できるという反論もあり話題になりました。
そのため、スパコンよりも高速処理を量子コンピュータが実現したとなると、公開鍵やビットコインの暗号がいずれ破られてしまうのではないかという不安が増大し、世間を賑わせる結果になりました。以前から、理論上は量子コンピュータが実用化されれば、短時間で暗号解読が可能になり、現在主流の暗号方式ではセキュリティが守られないと懸念されていました。
ただ、残念ながら今回の計測は、量子コンピュータに乱数を生成する量子回路を実装し、実際にビット列の乱数を生み出し、それに並行して既存方式のスパコンでも同様の構成の量子回路をシミュレーションし、同じように乱数を生成して競わせるという、量子コンピュータにとって圧倒的に有利な「ランダム量子回路サンプリング」という実用では全く利用価値のない特殊な計算でした。
量子コンピュータは量子力学の原理に従って動作し、量子力学の基礎方程式を元に、量子コンピュータの動作を従来のコンピュータでシミュレーションすることが可能です。但し、量子ビット数が50を超えるような量子コンピュータを
今回は、53ビットの量子ビットのコンピュータだったため、スパコンより優位に立てたわけですが、このレベルでは、とてもRSA暗号や、仮想通貨で使用されているSHA-256などのハッシュ関数を解読することは到底無理です。
量子を安定させるために絶対零度近く(-273℃)まで冷却する設備もかなりの投資ですが、量子ビットのエラー訂正技術を実現するには数百万個から数億個の量子ビットが必要とされるというのも非現実的に思えます。
量子コンピュータの高度な計算結果は量子コンピュータでしか検証できないということに加え、このエラー訂正の問題があるため出てきた答えが正解なのかどうか証明することはとても困難であるという事実が、量子コンピュータが本当に実社会で利用可能になるのかどうか、まだまだ不安にさせています。
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